味噌の放射能除去
味噌と放射性物質
放射線や発がん物質が消化管におよぼす障害作用を、みそはどこまで防げるか
- 長崎の原爆で被爆された医師(被爆当時28歳ぐらいと推定されます)であり、爆心から1400mほどの病院で自ら被爆しながら、「若布(わかめ)の入った味噌汁(赤味噌)」摂取などの食事療法を自分と周りの医療スタッフで意識的、継続的に実践され、原爆症の症状を発症せず、むしろ患者さんの診療に獅子奮迅の活躍をされた秋月医師(2007年10月、89歳で他界された)の食事療法の実践(「体質と食物」秋月辰一郎著昭和39年刊に詳しい)。
- その秋月先生の著書「体質と食物」に触発され、「放射性物質を除去する味噌の効用、発がんを予防する味噌の生理作用」他を科学的に証明した広島大学原爆放射能医学研究所・環境変異研究分野名誉教授渡逞敦光先生の研究や、同予防腫瘍教授伊藤明弘先生の研究実験結果(マウスによる数々の実験です)。
- 1986年のチェルノブイリ原発事故の以来、当時のソ連や欧州の人々が食卓に味噌を取り入れたこと。(「死の灰」ヨウ素131、セシウム134が北半球の広域に飛散、その時注目を集めたのが味噌の効力が書かれた秋月医師の本、結果ベルギー、ドイツ、オランダ、フランスなど欧州で味噌が消費され日本からの味噌輸出量が増えました)。
味噌と放射性物質の防御作用
放射能による消化管障害を防ぐみその効果
いわゆる原爆症は、被爆後約1ヵ月の間に下痢や血便、歯ぐきなどの出血傾向、白髪化、脱毛などの症状があら有れ、死亡に至るものですが、実験動物で調べると、この急性放射線障害は大きく三つに分かれることがわかります。
マウスに200Gy (グレイ=吸収線量の単位)という高線量の放射線を浴びせると、約1日ですべてのマウスが死に、これを「中枢神経死」と呼んでいます。
中程度の線量(10GyのX線:胃X線検査などに使用される線量の数千~数万倍)を全身に,照射した場合は、2週間以内に消化管の出血と壊死が起こり、下痢や血便を生じて死に至りますので「消化管死」と呼んでいます。
さらに少ない線量の照射により、2~4週間目に、骨髄で血液、特に免疫をつかさどる白血球ができなくなった結果、感染症などで死亡するものを「骨髄死」と呼んでいます。
私たちは消化管死に着目し、放射線に被爆した消化管にみその摂取が影響を与えるかどうか、マウスを使って実験を行いました。
中央味喀研究所より供与された乾燥赤みそをエサに10%混ぜてビスケット状の固形のエサを用意します。マウスを3群に分け、普通のエサ、みそを10%含むエサ、みそと同濃度の食塩を含むエサをそれぞれ1週間与えた後、すべてのマウスに同じ線量のX線を全身照射し、まだ生存している3.5日目に小腸を病理学的に調べました。
放射線照射によって壊された小腸の腺窩という組織がどれだけ再生しているかを数えたところ、普通エサ群と食塩群では、線量の増加に伴い腺窩の再生が著しく低下し、その数は10Gyの照射で10%近くまで減りました。これに比べ、みそ群では12Gyの照射でも腺窩の数が保たれ、再生力が明らかに増強されていたのです(図1)。
この実験では、みそに比べ効果は劣るものの、しょうゆを含むエサを与えた場合にも小腸の再生力が高まることが明らかになりました。このことから、みそやしょうゆの原料となる大豆、もしくは発酵の過程で生成する成分の中に、放射線障害を減少させるものが含まれていると考えられます。
私たちは放射線照射直後からみそを与える実験も行ってみましたが、この場合には小腸の再生力を高める効果は得られませんでした。先の実験と同様、照射から3.5日後に小腸を調べましたので、みそを与える期間が短すぎたか、または被爆後からの摂取では、放射線障害を減少させるみその効果が発揮されにくくなるものと思われました。
すなわち、放射線障害に対する防御作用をみそに期待するには、十分な量のみそを長期間摂取することにより、みそに含まれる有効成分の血中濃度が一定レベノレに維持されていることが必須条件と考えられます。
ことに消化管死を免れるほどの効果を得るためには、被爆前からみそを日常的に養取していることが必要と思われます。
みその有効成分がどのようなものであるかは今後の研究に待たねばなりませんが、チェルノブイノレ原発事故のような放射線被爆事故が今後発生した場合、みそないしはその有効成分を十分に摂取することにより、消化管の障害を防ぐ応急処置ができるかもしれません。
(広島大学原爆放射能医学研究所・環境変異研究分野教授 渡邊敦尭 教授による)