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未来へ 松本市制100年

第一部 残したい文化 5

地域独自の風味を伝承

信州みそ

 信州では桃の花の咲く春にみそを仕込む。木製
のおけが並ぶ慶応4(一七六八)年創業の石井味
噌店(松本市埋橋一)は、天然醸造にこだわ
る。加熱で熟成を速める主流の「速醸法」は採ら
ず、添加物も使わない。原料は大豆、米、塩とシ
ンプルだ。蒸した米にこうじ菌を付けてこうじを
作り、煮た大豆、塩と混ぜてつけ込む。

 信州のみそは「米みそ、淡色、辛口」が特徴
だが、石井基社長(七六)は「うちは三年間の熟成で
褐色になり独特の香りがある」と語る。長時間、
肉体労働をするため人材確保が難しいが消費者の
自然派思考が高まる中「国産原料による天然醸
造の方向性は間違ってはいない」。

 伝統的な発酵食品のみそはタンパク源、調味料
として日本の食文化を支えた。全国出荷量四十六
万トン(十七年度)のうち、長野県は二十万トンで
日本一だ。大手のない中信地方はここ数年、三千
トン台。(松本味噌醤油工業協同組合加盟社)を維持
する。老舗を中心に手間と時間を惜しまない天然
醸造の技術を守る。

 大豆の適作地だった信州は乾燥した気候で、夏
に昼夜の気温差があるため醸造に適した。明治以
降の工業発展で人口が増え需要も高まった。関東
大震災で救援物資として送り込まれ評価が上が
り、移出量は前年の四倍に。速醸法で大量生産方
式が確立し昭和三十年代に生産量は県内の食品工
業の中で一位となった。

 天保三(一八三二)年創業の萬年屋(同市城
東)は、昔ながらのみそ玉造りの製法を守る。蒸
した大豆で玉を造り三週間、熟成後、砕き、塩と
こうじと混ぜ再び熟成させる。玉造りの過程で塩
分を嫌う有用菌も付くためチーズに似た独特の香
りと風味が出る。

 県産みそのシェアは平成一四年以降は四十%台
に拡大。今井誠一郎専務(四二)は「だが、全国的に
生産量は微減傾向。業界は一部大手と小さな蔵が
残る二極化が進んでいる」と話す。昭和五四
年に二十社だった松本市の組合加盟は今は一三
社。「うちは家族経営で人件費が抑えられ、みそ玉
の特徴もあり、残れた」

 蔵の淘汰(とうた)については「食生活が変わ
り、みそ汁を飲むのは朝食だけという人が増えた
から」とみる。みそは気候や蔵に住む菌で独自性
が出るため「蔵が減れば地域の食文化が消え、多
様性がなくなる」と寡占化を憂慮する。

 地産地消や「食育」が重要視される今、今井さ
んは「給食で旬の野菜を使った、だしのきいたう
まいみそ汁を食べる機会が増えれば魅力を実感し
てもらえるはず」と語る。みそは日常品から、
し好品になりつつあると感じ「都市の消費者を中
心に付加価値があれば一キロ二千円でも売れるチャ
ンス」と見通している。

(報道部・浅井文人)
第一部終わり

「戦後に速醸法を取り入れたが大手にかなわないとや
めた。今は天然醸造が時代に合っている」と話す石井さん