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信州三年味噌
石井味噌店

 信州といえば味噌だが、現在、ほとんどの味噌は「速醸法」で造られている。醗酵
促進剤を添加して醸酵を入為的に速め、十五〜二十日で造ってしまう方法だ。

 だが、松本市に、昔ながらの天然醸造法を頑固に守る味噌蔵がある。
「信州三年味噌」の石井味噌店。

 その名の通り、仕込んでから三年
目で、やっと入人の口に入る味噌だ。
じっくり時間をかけて天然熟成させ
た味噌の色は、深々と赤い。大豆も
輸入ものではなく、県内産の大粒大
豆「金鶴」を使っている。

 慶応四年の創業時からのものもあ
るという仕込み用の大桶を前に、石
井基社長は言う。
「大豆、麹、塩。味噌の原料はこの
三点ですが、それに加えて大事なの
が"時間"なんです」

▲石井味噌店 電話O263(32)0534 松本市埋橋1-8-1

◆信州の天然醸造三年味噌------石井味噌店

自然のまま頃のびのび育った昔ながらの旨(うま)味噌

 久しぶりに"味噌汁らしい味噌汁"に出会った気がした。 

松本市の石井味味噌店で、「まずは一杯」とごちそうになった味噌汁のことだ。
信州三年味噌。「二寒二土用」を越した三年熟成の味味噌である。春に仕込み、その年
の夏(土用)、冬(寒)を越す。翌年の夏、冬を再び過ぎて、三年目にやっと出荷。十
分に熟成を重ねた赤褐色の味噌は、深みのある味と香りを醸し出している。

 スーパーなどでみかける味噌は、ほとんどが「速醸法」で作られたもの。醗酵促進
剤を人為的に添加して醗酵を速め、十五〜二十日ほどで造ってしまう。大量生産・
大量消費のサイクルが生みだした方法だ。

 しかし、石井味噌店は慶応四年の創業以来、頑固一徹、いっさいの人工添加物を使
わず、昔ながらの自然醗酵による天然醸造法を守り続けている。生産量に限りがある
ので、既存の流通ルートには流さず、一般家庭と料理屋への産直通販のみである。

 いわゆる「赤味噌」「白味噌」の違いについて石井基社長(=写真)に話を伺った。
「味噌は熟成すればするほど色が濃くなるので、要するに昔の味噌は、京都の白味噌
以外はすべて赤味噌でした。京都の白味噌は、麹を二割五分くらいよけいに入れて醗
酵を速め、熟成しきらないうちに出荷します。正月の雑煮とか、むしろ料理用の味噌
ですね。昔から、味噌汁などに使う味噌は赤味噌でした。ところが今は速醸法で造っ
てしまうので、熟成不十分な白い(淡色の)味噌が多いというわけです」

 ちなみに名古屋の八丁味噌というのは、
また独特のもの。通常、味噌は米麹と大豆
と塩を混ぜて造るが、八丁味噌は大豆その
ものを麹にする。米麹は使わない。非常に
赤黒いのはそのせいだ。いわば醤油と味噌
の中間のような造り方をする味噌なのだ。

一年に一度の「天地返し」で生きている味噌が活気づく


石井味噌店の麹室(こうじむろ)の温度管理はコンピュータ制御である。米から麹をつくり、大
豆を煮て放冷するまで----すなわち料理屋でいえば「調理場」は最先端の技術を駆使
しているが、大豆、麹、食塩の三原料を混合して大桶に仕込んでからは、白然のまま
の醗酵-熟成を待つことになる。

 ここから大切な作業が「天地返し」。一年に一回、桶を移し替えて空気中の乳酸菌を
たっぷりふくませるのである。「味噌は生きものですから、人間と同じよ
うに酸素を吸って炭酸ガスを吐き出しています。桶の中の味噌は重石が乗せられてい
て空気に触れることがないので、それを移し替えることによって酸素を補給してやる
と、活性化がはかれて美味しくなるんです。上と下をひっくりかえして温度を一定にす
るはたらきもあります」(石井社長)

 速醸法ではこの天地返しができない。ここに天然醸造法による味噌の旨さの一端が
あるようだ。二年目の天地返しで冷たい蔵に替え、そこから出荷する。巨大な木桶は
杉材で、創業時から使っているものもある。味噌桶は塩気がしみるので長い間もつのだ。

 温度管理はしない。自然にまかせておく。「それがいちばん"素直な"味噌ができる
んです。うるさく管理すると、味噌が"いじけて"くる。子供と同じですよ」

 米不足になった冷夏の年に仕込んだ味噌を出荷した時のこと。その年は売り上げが
若干落ちた。天然の自然醗酵は正直だ。「醗酵の度合がいつもと少し違う。お得意
様はちゃんと分かってらっしゃるんですね」

▲石井味噌店 電話 0263(32)0534
〒390-0813 松本市埋僑1-8-1